「学術研究事始めA・B」  日置尋久(総合人間学部・准教授)

科目の概要

 平成19年度から全学共通科目として、「学術研究事始めA」を前期、同Bを後期に1コマずつ開講している。内容としては前期、後期と続けて受講す ることを想定して設計されている。本科目は「研究リテラシー入門コース」の1つであり、同コースでは他に「研究の世界A・B」が開講されている。
  本科目は、主に1,2回生を対象として、研究活動を一通り体験してみること自体を目的としている。研究テーマを受講生が自由に選定するようにしていること が大きな特徴であり、テーマを選定すること自体が授業での大きな目標となる。そのことをきっかけとして、受講生が自分のやりたいことを見つめ直し、その目 標に到達するために必要となる学習カリキュラムを自ら設計することがこの授業のもう1つの目的である。


授業の流れ

 授業では、まず研究テーマを決めるための最初のステップとして、受講生に論文を検索してもらう。このとき一般的なキーワードから始めて、新たなキーワードを見つけてもらうようにする。発見したキーワードはWWW上に用意したボードに順次貼り付けてもらい、また口頭でも簡単に解説してもらうことで、クラス内で情報の共有をはかるようにしている。テーマは自由としているため、担当者も初めて見るようなキーワードが出てくることも少なくない。
  論文を入手した後、一般的な論文の型について知るために、クラスをグループに分けて、グループ毎に、お互いに入手した論文を比較して、論文の構造を分析してもらう。このとき「要旨がある」、「参考文献のリストがある」、あるいは「文章は常体(...である調)で書かれている」など、グループで発見できたことをやはりWWW上のボードに貼り付けてもらう。
  その後、テーマを決めるために、論文の読み方、テーマの明確化のための指針などを示す。受講生は既存の論文や関連資料にあたって、前期終了の時点までにテーマを確定させることが求められる。その成果を示す場として、テーマ発表会を設けている。
  後期は、確定させたテーマについて掘り下げるために、毎回発表者を決めて、クラスでディスカッションを行っていく。ここでは、各受講生が他の受講生に研究内容を説明して自分の考えを明確化させることを狙っている。
  最後に12月に入る頃から、実際に論文執筆に入る。もちろん単に書いて終わりにはしないで、論文としてふさわしい文章に仕上げることを目指して、原稿には修正、再修正を加えていく。このとき、担当者が見るだけでなく、受講生の間で原稿を交換して、コメントをつけるようにする。それを経て、最終的に、1年の成果が論文として提出されることになる。


所感など

 本科目では、自由にテーマを設定できるとはいっても、もちろん、実際にできることには制限がある。授業で使える道具は、基本的にはコンピュータのみであり、授業中はどうしても資料の調査が中心となる。しかしそれに留まらず、自宅で実験を行ったり、早朝から観察を行ったり、プログラムを書いたり、あるいは古い書物を入手したりするなど、授業外にも積極的に活動する受講生が少なからず見受けられた。受講生からも「自分のやりたいことが授業でやれてよかった」といった評価が見られた。このような積極性を引き出せたことは収穫であった。
  一方、興味のある問題はあっても、資料が入手できなかったり、問題が漠然としていて、テーマを絞り込むまでに至らず、リタイアする受講生も見受けられた。そういった場合、そのような学生がやる気がないというわけではなく、むしろ意識が高い場合が少なくない。必ずしも担当者の専門分野ではないテーマについて、どのようにフォローしていくかということは今後の課題である。
  授業で自由にテーマが設定できることについては、受講生にはおおむね肯定的に受け止められているようである。しかし、自由にテーマを設定するがゆえに、担当者自身が必ずしも的確にコメントできなかったり、受講生同士もお互いに関心を持ちにくくなるという問題も生じている。このような問題に対しては、今後可能であれば「研究リテラシー入門コース」に相当する科目を増やして、たとえば前期の段階でテーマに関わる分野を定めて、後期はより専門に近い担当者のコースを選択するというカリキュラムも考えられるのではないだろうか。
  現在の授業形態では受講者数は限られるものの、この授業での活動が卒業研究あるいは他の授業でのレポート作成に取り組むための準備となり、また学術的な活動に対する意識を高めることにつながれば幸いである。