新任教員教育セミナー(2021.9.22開催)

テーマ3「困難を抱えた学生に向き合うには」

  • 事例紹介:和田 竜太 講師(学生総合支援センターカウンセリングルーム)
  • ファシリテータ:勝間 理沙 特定助教(高等教育研究開発推進センター)

 本セッションでは,特に京都大学における学生支援をテーマとして行われ,27名の方が参加されました。本セッションの趣旨は,「修学上,研究指導上で不適応を起こした学生に対して,教員としてどう向き合えばよいのか,学生のその後の人生を左右する時期に関わっていることを意識し,可能な対応を探るにはどうすればよいのかを考えること」でした。そのため,講師の和田先生より,前半ではまず,京都大学の状況や大学,大学院の時代の学生の不適応の様相を知る,また学生が抱える困難を知る,あるいは気づくために必要な姿勢や「聴き方」についてのミニ講義が行われました。そして後半では,話の「聴き方」の体験実習を行いました。
 具体的には,前半のミニ講義は冒頭60分ほどで行われました。はじめに「数値で見る全学的状況」として,京都大学の学生数や規模などの数値や,京都大学の学生支援体制として近年では,教育推進・学生支援部や学生総合支援センターなどの全学での支援に加えて,部局での支援として相談室や保健室が設営されていることが説明されました。また,カウンセリングルーム相談件数が毎年増えていることや,学部,修士課程,博士課程毎の「相談内容」,部局毎の「留年」の状況が紹介されました。その後,より詳細な学生の悩みの様相について紹介がありました。学生が大学生活におけるつまづくこととして,学業や研究上のつまづきや人間関係のこじれのみならず,生きがいやアイデンティティなど,学生特有のさまざまな不適応の様相があることが示されました。本年度も,人付き合いがなくなったことやオンライン授業におけるコロナ禍の影響での相談があったことが紹介されました。
 そのような現状を踏まえて,さらに,学生のさまざまな悩みや困難を「知る」あるいは「気づく」ための話の「聴き方」として「傾聴」について説明されました。その中で,相談学生から言われた「人に話を聴いてもらうというのは,何かアドバイスをもらうことより,そのまま受けとめてもらうことなんだと感じました」という言葉が紹介され,傾聴がどのようなものかを理解するヒントとなりました。引き続いて「傾聴」とはどのような聴き方なのかということについての基本的な方針や4つのポイントなどについて説明がありました。
 それらの講義の後,後半30分ほどを使った体験実習として,Zoomのブレイクアウトルーム機能を利用し3~4人1組のグループに分かれ「傾聴」のロールプレイを行いました。ロールプレイではまず,「悩める学生役」としての役作りとして「悩みの内容」を各参加者に5分間で考えていただきました。その後グループに分かれ,じゃいけんで順番を決めてもらい,簡単な自己紹介と実際のロールプレイを行ってもらいました。ロールプレイでは,「①悩める学生役」,「②相談に乗る教員役」,「③,④見守り手+③タイムキーパー」の役割で実施してもらいました。ロールプレイの状況設定は「研究室の指導学生からZoomで相談を受ける」というものでした。5分間のロールプレイの後,さらに5分間でグループでの振り返りを行い,それぞれの役の中で感じたことなどを共有していただきました。役割を変えてもう1ターン行うことができ,全部で2ターン行うことができました。
 最後に和田先生から,Zoomや電話など遠隔で相談を受ける際の注意点が説明され,まとめが行われました。まとめでは,学生に対していつも「傾聴する」スタンスで関わることは現実的ではない,教員の役割の中で学生を「指導する」ことは重要な仕事の一つで,ときには「アドバイス」したり,「指示・注意」,「叱咤激励」したりすることも必要な場面もあるだろうという重要なメッセージが送られました。
終了後少しの時間,質問の時間が設けられましたが,さまざまな質問をいだきました。学生と実際に関わる先生方の「生の」悩みや疑問が投げかけられました。重要なことは,先生個人で抱え込まず,研究室の他の学生メンバーや同僚と共有すること,学生総合支援センターなどの専門家につなぐことなどが挙げられました。
 現在の学生の状況を知るだけでなく,相談の際にどのようなことが重要であるかといった実践的なことも学ぶことができ,大変有意義なセッションとなりました。