新任教員教育セミナー(2020.9.24開催)

テーマ1「留学生とどう向き合うか」

  • 事例紹介:鈴木 あるの 講師(理学研究科附属サイエンス連携探索センター(SACRA)国際戦略部門)
  • ファシリテータ:佐藤 万知 准教授・Nikan Sadehvandi 研究員(高等教育研究開発推進センター)

 京都大学における留学生対応をテーマにした本セッションには、9名の新任教員が参加をされました。留学生をめぐる世界、日本全体、京都大学の動きを概観しつつ、個々の教員レベルで直面している課題に対する方策を考えることを目的としました。
 前半は、鈴木先生よりミニ講義が行われました。講義の中では、まず、世界全体および日本における留学生事情についての紹介がありました。留学生受け入れは、世界的には英語圏がリードをしてきましたが、近年では非英語圏(東アジアや東南アジア)における英語学位プログラムが急増し、シェアを高めていることが示されました。その中、日本はどういう戦略で留学生受け入れに向き合っていくのかが疑問として提示されました。日本では、歴史的には、途上国支援の一環として留学生の受け入れが位置付けられてきましたが、近年では、国際競争力、経済のグローバル化といった影響を受け、優秀な人材を確保することや世界水準の高等教育を提供することを目的とする、というように位置づけが変化してきたことが説明されました。他国と比較をした時に、日本は物価が安く、アルバイト等がしやすいといった特徴を持ち、日本の大学を踏み台に欧米の大学院に進学する、というルートがあることが紹介されました。
 京都大学における留学生事情では、留学生のカテゴリーの多様さ、担当部署の複雑性についての説明がありました。担当部署については、国際交流担当組織の変遷を辿った上で、現在、どの部署がどういった役割を担っているのかの説明がありました。
 その後、留学生が抱えうる課題について、鈴木先生が専門とされている居住環境と文化的相違の視点からのお話がありました。具体的には、留学生寮のあり方についての世界各国と日本の違いや、あまり留学生の慣習的違いを配慮しない日本の寮の課題などについての紹介がありました。
 後半では、グループに分かれて、留学生に関する経験と疑問、東南アジア・中央アジア・インド・中東・アフリカ・南米に関する経験またはイメージ、について話し合いました。全体に共有された内容として、まず、留学生の日本語教育のあり方についての議論がありました。留学生が日本に定着することを促進するのであれば、日本語教育をすべきだが、活躍する場所を限定せず研究者として世界に羽ばたくことを目標とするのであれば、日本語教育よりも研究能力を高めることに時間を費やした方がいいという考えが述べられました。その上で、京都大学としては、留学生にどうなってもらいたいと考えているのかを明らかにするべきではないか、との意見が示されました。2点目に、留学生を支援する体制を整えた方がいいのではないか、という意見が出されました。例えば、留学生が問題行動を起こした場合、受け入れている研究室の教員が責任を負うのではなく、何らかの部署が対応をする方がいいだろうという考えでした。3点目に、国際社会における国家間の政治問題について教員はもっと鋭敏になる必要があるのではないか、という意見が出されました。最後に、効果的な留学生のリクルートについての課題が指摘されました。
 参加者が少人数のセッションでしたが、なんらか形で留学生に関わりをもち、課題意識を持った教員が集まっていたため、より深い議論を行うことができました。鈴木先生によると、日本全体の傾向として、留学生を特別に扱い組織体制を整える形式から、留学生も一般学生と同じに扱う体制への移行期間のため、個々の大学教職員への負担が高まっているということです。今回のセッションが、横のつながりを形成するきっかけとなれば有意義だと思われました。