新任教員教育セミナー(2016.9.1開催)

テーマ3「困難を抱えた学生に向き合うには」

  • 事例紹介:杉原 保史 教授(学生総合支援センター長)
  • ファシリテータ:松下 佳代 教授(高等教育研究開発推進センター)

 本グループには21名の参加がありました。まず、杉原先生に「困難を抱えた学生に向き合うには~援助的な人間関係を築く面談技術~」というタイトルでミニレクチャーを行っていただき(約40分)、次に、参加者全員が「ロールプレイ実習」に取り組み(約50分)、最後に、ロールプレイでの気づきをふまえた質疑応答を行いました(約20分)。

 1.ミニレクチャー
 ミニレクチャーでは、まず、京都大学における自殺や留年の状況(自殺死亡率、留年率)、そういった困難を抱えた学生に対する支援体制、カウンセリングルームの相談件数などの概要が示されたのち、大学生活における学生のさまざまなつまづき(学業での停滞、人間関係のこじれ、失恋・いじめ・ハラスメント、家族関係の悩み、アイデンティティの拡散、生きる意味の喪失、性格やメンタルな悩み、発達障害など)に対応するには、専門家任せにするのではなく、所属部局という学生の「ホーム」での指導教員による面談が重要であることが語られました。
 杉原先生がまず注意されたのは、通常の相談では意味をもつ「問題点の指摘、助言、励まし」が、深く悩んでいる人の相談では「やっぱり自分はダメなんだ」「先生には僕のようなダメ人間の気持ちは分からない」といった落ち込みを招いてしまう、ということです。必要なのは「傾聴」です。まずはただ相手の話を聴く、悩みそのものを否定せずただ感じようとすることに努める、といったことが、〈傾聴の基本的な方針〉となります。
 傾聴しながら、「大変だね」「つらかったね」「がんばってるね」という〈3つの基本メッセージ〉を伝えていきます。そのときには「2つのうなづき」(興味津々の小さなうなづきと納得の大きなうなづき)と「要約&質問」という〈2つの基本スキル〉が必要になります。質問の際は、「非指示的リード」(「というと?」「それからどうなったの?」など)と「オープン・クエスチョン」を心がけます。

2.ロールプレイ実習
 このように、面談のコツを伝授していただいた後、杉原先生が指導教員、ファシリテーターの松下が悩める学生となって、ロールプレイを実演してみせました。
 その後はいよいよロールプレイ実習。参加者が3人一組になり、悩める学生の役、相談に応じる教員の役、観察者兼時計係を入れ替わりながら、15分(準備1分、相談8分、ふり返り7分)×3セッションを行いました。
 この間、講師やファシリテーターはまったく介入しませんでした。50分近くもの間、ロールプレイだけで大丈夫だろうかと思っていましたが、どの参加者も熱心に取り組んでおられ、時間が過ぎるのが短く感じられました。

3.質疑応答
質疑応答では、ロールプレイをやったからこそ得られた気づきにもとづく質問がいくつも出されました。

Q:カウンセラーと異なり、教員は授業や研究指導の中では、学生に鋭い質問を投げかけたりアドバイスをしたりすることに慣れている。同じ教員で立場を使い分けるのか。
 A:そう、立場を使い分けてほしい。研究を指導する教員としては鋭い質問をしても、この場合は受容的に接する必要がある。
Q:傾聴しながら、要約&質問をしていくと、面談を切り上げるタイミングが難しい。いつどのように終わればよいのか。
 A:1時間とか面談の時間を区切ってもよい。「きょうはもう帰ってお風呂入って寝なさい」のような具体的なアドバイスでよい。
Q:発達障害学生にはどう接したらよいか?
 A:傾聴していると彼らなりのロジックがわかってくる。そのロジックを理解することが必要。
Q:面談の中で、自傷や他害、犯罪に気づいたときはどうすればよいか?
 A:その場合は聴くだけでなく、迅速な対応が必要。プライバシーは保護しながらも他の教員と共有した方がよい。

残念ながら、時間が来て質疑応答はここで打ち止めになりましたが、時間さえ許せばさらに議論が続きそうな気配でした。ミニレクチャーとロールプレイ実習によって、それぞれの参加者がさまざまな学びを得たことが感じ取れました。そのことは、事後アンケートでの有意義度の高さ(4.8点)にも表れています。