新任教員教育セミナー(2017.9.6開催)

テーマ2「科学を『伝える』授業から、科学が『伝わる』授業へと転換するには」

  • 事例紹介:加納 圭 准教授(滋賀大学教育学部、元京都大学iCeMS特任准教授)
  • ファシリテータ:岡本 雅子 特定助教(高等教育研究開発推進センター)

 本セッションには、9人の方が参加しました。セッションの冒頭に、アイスブレーキングの効果を期待して「マトリクス自己紹介」を実施しました。この「マトリクス自己紹介」は米光一成氏が開発した方法で、まず、A4の紙のまん中に自分の名前を書き、その後、「関心のあるとこ」「好きなもの」「よく行く場所」など自分に関連する単語を書き出してマトリクスを作成し、次に、それぞれが相手のマトリクスを見て、気になる単語や自分と共通する単語などをヒントに相手に質問し、また、質問された側はそれに答えるという構成です。
 続いて、科学コミュニケーションの重要性を認識するための題材として、「遠距離恋愛ゲーム」を行いました。遠隔地に住む者(情報提供者=伝える側)が、初めて訪ねてくる恋人(情報追随者=伝わる側)に、周囲の景色として「何が見えるか」を携帯電話で聞き出しながら自宅(情報提供者が誘導する目的地)まで導く、そうした場面を机上で再現するゲームです。このゲームでは、恋人を誘導する様子を再現するために、それぞれに経路に関する情報が記載された紙を与えるわけですが、2人の紙に描かれた図は、いくつかの点において内容が一致していません。「伝える側」は、当然ながら自宅までの経路や自宅の所在地をよく知っているという想定ですから、図には経路が記載されているし、目標地点も記載されています。一方、遠くから来たという設定の「伝わる側」の図には、経路は記載されていませんし、目的地は記載されていません。それだけではありません。「伝える側」の方が地理をよく知っているとはいえ、気に留めていないような経路上の景色だって想定されますし、「伝わる側」が気づかない景色も想定されるわけですから、両者の図に記載された目印が完全に一致しないように作られています。両者は図に描かれた情報を相互に交換しながら作業を進めていくのですが、その内容が完全に一致していないため、目的地への誘導に失敗することがあります。こうして、自分と全く同じバックグラウンドを持つ人はないこと、バックグラウンドが少し違うだけでコミュニケーションが難しくなること、「伝わる側」の反応を見ることによってコミュニケーションが成立することなどを学びました。
 最後に、「科学のやり方」の一例として、NHK Eテレ『考えるカラス』の「お盆と風船」の紹介がありました。空気の入った風船とお盆を別々に落とすと、お盆は速く落ち、風船はゆっくりと落ちます。加納准教授から、「この風船をお盆にのせて落とすとどうなるか」という問いが出されました。この答えは「いっしょに落ちる」でした。続けて、加納准教授から、「なぜお盆にのせると風船はいっしょに落ちるのでしょうか」という新たな問いが提示されました。参加者は、お盆に見立てた段ボールと風船を用いて、条件をかえながら、実験を試みました。ここでは、グループで仮説を立て、その仮説を検証するための実験を繰り返すことで、参加者自ら学生の思考プロセスを追随することにより、学生の考え方や発想の仕方を学びました。
 上述した3つの題材を通して、今後の授業に活用できる「科学が『伝わる』授業へと転換する」方法論やプロセスを学べる有意義なセッションとなりました。

当日の様子